解凍
私は、よく思い出を解凍した。
寂しい時や悲しい時に、
キラキラしたあの頃を温め直す。
冷凍された思い出のストック。
ジップロックに1つずつ丁寧に入れてある。
たまに、あの頃によく聴いていた音楽やあの人が教えてくれた曲やブランドを聞いたり見たりすると、
勝手にレンジでチンされてしまう。
また冷凍するのは簡単だからいいのだけど。
そんな非常食が、私にはストックされているから、今の幸せが余韻を楽しむ前に冷凍保存されてしまう。
そのために、どんどん新しい幸せが欲しくなる。
なんて貪欲でめんどくさい人間なんだろう。
私はある時、あの時の彼にこう言った。
「幸せは砂時計みたいに落ちていくの。」って。
どんなに砂を入れても、
すーっと吸い込まれて消えてしまう。
過去よりも今の方があなたにしか作れないから、
より虚しくて。
過去は解凍できても、
今を解凍することはできなくて。
今はほかほかの出来立てだから、美味しいねって
あなたにこの笑顔を見せられる。
砂時計に幾度となく、砂を流し込んでいたら
いつの間にか砂が蓄積するようになって、
満ちる感覚を覚えて。
粘り強さに、根負け。
あなたがあまりにも温かいから、
冷凍するまでに少し常温で置いておくね。
それが余韻となってしあわせが
じんわりと温かみを感じる。
よく出来た話、そんな話をしていることを
あなたはきっと知らない。
じゃあ、冷まし終えたら
大切に保存するね。